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谷崎潤一郎の『陰影礼賛』は有名ですが、その中で彼が言おうとした「陰の美」は、今の日本では理解しづらくなってしまったような気がします。今は郷土文化を残そうとして、「民家村」などが保存されていますが、そういうところを訪ねてみると、実に明るいイメージを受けます。板張りの床の上に畳が敷いてあり、柱もよく磨かれていて、茅は真新しくて、蛍光灯が青白い光で部屋の隅々まで照らしています。全く夢を感じさせません。

けれど二十年前(一九七四年当時)の祖谷には神秘な陰が残っていました。祖谷は貧しい山村でしたから、民家は、日本の田舎の家のサイズと比べると小さいほうです。キザミタバコの産地であったため、どの家もタバコの葉を家の中に吊してありました。そのため天井はなく、屋根がゴシック寺院のように高く聳え立っていました。

このような祖谷の民家に比べると飛騨高山の民家はそのサイズは数倍大きいのですが、各階に天井が張ってあるので全体の広さは、家の中に入ってしまうとあまり感じることがありません。一方、祖谷の民はは小さいのにもかかわらず、天井がないということと、暗いことが重なって、家の内部が非常に広く感じられます。家の中は洞窟、外に出ると雲の上の天界。峡谷と山脈がはるかに展望される祖谷に来て、家は小さいけれど、ここは僕の夢見ていた「城」があるところだと感じました。この時から祖谷の家を手に入れたいと、心から願うようになりました。

美しき日本の残像 P.21-22
陰影礼賛 谷崎潤一郎 中公文庫








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